涼宮ハルヒの後期高齢者医療制度…もとい『老人と宇宙』

──放課後、県立北高校、文芸部兼SOS団部室にて
ねえ、キョン、あんた老後のことについてなにか考えてる?

なんだよ、藪から棒に。青春真っ只中の少年がそんなこと考えているわけないだろ。
お前は考えているのか?

あたしも特に考えてないけど……なんか最近、年金問題や高齢者の医療制度のことでいろいろニュースが流れているじゃない? 年金の記録漏れだとか負担増だとか、不安を煽るようなことばかりで、あたしがお婆さんになったとき、社会はどうなっているんだろうと、ふと思ったのよ。


ハルヒが社会問題について考えるなんて珍しいな。

ふん、なにさ。

でもさ、このまま高齢化社会が進んでいったら、お年寄りだけじゃなくて、若い世代の負担も増えて立ち行かなくなっちゃんじゃないかしら。結局、医療費のほとんどは健康保険から出ているじゃない? 老人が増えれば医療費も増えていって、お金が足りなくなるような気がするわ。

国民健康保険では赤字分は国や自治体が補填することになっていますね。

へえそうなんだ。

実際、1980年ごろから赤字の国民健康保険組合が増えています。赤字を減らすために本人負担率は1割から2割に、現在は3割まで引き上げられました(ちなみに社会保険や共済保険の健康保険組合は概ね黒字です)。

でも、老人の負担割合は小さいんでしょ?

そうですね。国民健康保険の枠内に老人保険制度というのがあって、75歳以上の人の加入者負担が安く、本人負担額も1~2割となっていました。

だけど、それを廃止して新しい制度にしたんでしょ?

そうです。老人保険制度はあくまでも国民健康保険の制度の一部だから赤字になると国が補填していました。だけどあまりに赤字が大きくなりすぎて補填しきれなくなってきたんです。このままでは国民健康保険という制度自体が危うい。国民健康保険が破綻すれば国民全体が被害を被る。だから、医療費が多くかかかる75歳以上の高齢者を現行の保険制度から切り離し、運営を健全化させて破綻を防ごうとしているのです。

老人を切り捨てて自分達は助かろうというの? 虫のいい話ね。それじゃ姥捨て山だとか弱者切捨てといわれても仕方ないじゃない。

いえ、ですから従来の保険から切り離す代わりに、国や自治体や社会保険がお金を出し合って高齢者の医療費を完全にサポートするのが後期高齢者医療制度なんです。後期高齢者医療制度では、医療費の負担割合は、国40%、都道府県10%、社会保険&共済保険40%、本人10%となっています。自己負担30%(老人は10~20%)の国民健康保険と比べて、個人負担は軽減されます。一種の保険制度ですので保険料を払わなければなりませんが、保険料は不公平の無いように誰もが同じだけ負担するようになっています。もちろん年間の収入が少ない人には保険料の軽減措置もあります。国民健康保険では、一般的に老人の多い自治体は医療費負担が大きいため保険料が高く、逆に老人の少ない自治体は安くなっています。後期高齢者医療制度ではこの差をなくしているのですが、当然、保険料が下がった人もいれば高くなった人もいます。

ふうん。
ということは、保険料が高くなったといっているのは、いままで他より安い保険料を払っていた人たちなんだ。

そうですね。
まあ、負担が増えた人の気持ちもわからないでもないんですが、マスコミはそこだけを強調しているので後期高齢者医療制度が悪者のように見えるのです。

でもさ。高齢化社会がどんどん進んでいったら、医療費もどんどん膨らんで、いずれ後期高齢者医療制度も破綻してしまうんじゃないかしら。

なんちゃらステーションのキャスターや、民主党の某議員の主張ですね。
確かに彼らの言うとおり高齢者が増え続ければ制度は破綻してしまうでしょう。でも、その前提は誤りです。

と、いうと?

「感動した」が口癖の僕と同じような名前の首相が行なった構造改革で医療制度が抜本的に見直され、医療費の増加を抑えることに成功しています。1995年以降、医療費はほとんど横ばい状態です。

へえ、それは知らなかったわ。

それと、この国は2006年から人口が減少に転じています。2030年ごろには一気に減って総人口が1億人を割り、超が付くほどの高齢化社会ではなくなると考えられています。

どうして?

ちょっと言い方が悪いのですが、現在、高齢化社会を促進しているのは、1930年代から50年代にかけて生まれた人たちです。戦中戦後のこの時期、出生率は4.0を越えていたそうですよ。このときに生まれた人はおよそ4000万人。その時代を過ぎると出生率は一気に下がって2.0ほどになり、現在は1.3にまで減少しています。人口が自然に増加するには出生率が2.2以上必要だといわれています。つまり実は少子化は50年前から始まっていたんですね。
ここで質問ですが……1960年代からは出生率が人口自然増の水準値以下だったにもかかわらず、2005年まで日本の人口は増え続けてきました。どうしてだかわかりますか?

う~ん、生まれる人が少なくなったけど、死ぬ人も少なくなったからかな。

そう、日本人の寿命が伸びたせいです。1950年代には60歳だった寿命は、医療技術の発達のおかげで現在は80歳ほどになりました。ですが、最近は頭打ち状態で、今後寿命が飛躍的に伸びることはないだろうといわれています。このことを踏まえると、1950年生まれの人が80歳になり、寿命で亡くなっていく2030年以降、急激に人口が減り、その後は緩やかな減少傾向になると考えられています。

つまり、2030年まで耐えれば、高齢化社会は緩和され、医療費も一気に低減されるってことなのね。

そうです。後期高齢者医療制度は年金からの天引きなど、負担増ばかり強調されていますが、現行の国民健康保険制度を壊さずに、なおかつ高齢者を守るために考えられた制度なんです。目先の負担に気取られて安易に負担軽減の方向に制度を変えると、それが国民健康保険の破綻という形で将来にのしかかってきます。そのとき負担に喘ぐのは誰でもない、僕達、若い世代なんですよ。

そっかぁ、高齢者だけじゃなくて、現役世代も守ろうというのが後期高齢者医療制度の意図なのね。よくわかったわ。

お役に立てて光栄です。

それにしても詳しいのね、古泉君。もしかして、将来は政治家になろうとか考えてる?

まさか……僕もちょっと時事問題に関心があっただけです。
でも、もっと広い意味で人びとのためになる仕事に就きたいとは思ってはいます。例えば、滅びゆく世界を人知れず救うエージェントとか。

さっすが古泉君。それでこそ我がSOS団の副団長だわ。

いえいえ。

キョンも古泉君を見習いなさい。あんたなんか、あたしがついていないと一生誰の役に立たずに、ぐーたら生きていそうね。

余計なお世話だ。

そうですね。キョン君には涼宮さんが一生ついていてあげないといけませんね。ふふふ。

それは名案。

ばっ……ち、違うわよ、そういう意味でいったんじゃなくて……ええと、その……。

ああ、そうだ! そもそも高齢者に医療費がかかるのは身体が老化してガタがくるからよ。年をとったら機械の身体に取り替えるのってどうかしら。そうすれば医者にかかる必要もなく永遠に生きられるわ。

無茶なことをいうな。

こうしちゃいられないわ。キョン早速探しにいくわよ!

なにをだ!?

銀河鉄道よ! 列車に乗ってアンドロメダまでいって機械の身体を仕入れてくるのよ。きっと駅の9と3/4番線から発車するに違いないわ。これは人類の夢よ。時は待ってくれない。時間は夢を裏切らない。夢も時間を裏切ってはならないわ!

ちょっ、そのセリフやばい! 海賊みたいな格好をした爺さんに訴えられるぞ!

ぐずぐずしない! いくわよ、キョン!

おい、ネクタイを引っ張るな────

バターン。ドタバタドタバタドタバタドタバタ。
やれやれ、いってしまいましたか。まあ、本当に機械の身体があればいいんですけどね。

本当ですね。

………。

これは失礼。長門さんは、ある意味そういう存在でしたね。気分を害されたのなら謝ります。

いい。

長門さん、さっきからなんの本を読んでいるんですか?

これ。


涼宮ハルヒと古泉一樹が話していた問題を解決するヒントが見つかるかもしれない。
読んでみるといい。


『老人と宇宙』は後期高齢者医療制度を題材にした本ではありません。宇宙を舞台に異星人との戦いを描いたSF小説です。
人類が入植した惑星を守る「コロニー防衛軍」は、なぜか75歳以上の高齢者のみを募集していた。妻に先立たれ、生きる希望をなくしたジョン・ペリーは、子供や故郷に別れを告げ、防衛軍への入隊を決意する。身体的にはもうほとんど役に立たない老人達を入隊させて防衛軍はちゃんと機能しているのか? 人類と敵対しているエイリアンとは何者なのか? 興味のある人はこの本を手にとって見るといいでしょう。続編も発売されています。
なお、後期高齢者医療制度について、自分の理解の及ぶ範囲で書きましたが、ここが違っているぞというところがありましたら、ご指摘いただくとありがたいですw


▼出演▲
SOS団のみなさん